導入事例:静岡県 富士市様・富士市立伝法小学校様

住民の「多国籍化」、そして外国籍の子どもたちの支援に「やさしい日本語」を活用したい

静岡県富士市は市内の小中学校向けの利用として、2021年4月から「伝えるウェブ」を導入していただいています。

今回は「学校現場でのやさしい日本語エディタの活用方法」について伝法でんぼう小学校の福澤教頭先生に、「富士市におけるやさしい日本語への取り組み・伝えるウェブ導入」については市民活躍・男女共同参画課の加藤様、学校教育課の米山様にそれぞれお話を伺いました。

富士市役所ホームページの画像

富士市立伝法でんぼう小学校 福澤先生のお話(電話インタビュー)

伝法小学校について教えてください。

市内では標準規模の学校で、日本語の支援のために特別の教育課程を組む必要がある児童は5人~10人くらいです。昔から外国籍の児童や帰国子女などはいましたが、特別に外国の方が多い地域というわけではないと思います。日本にいる知り合いを頼って外国の人が移住してくるケースがよくあるので、地域にはポルトガル・スペイン・パキスタンの方などによるコミュニティが形成されています。

やさしい日本語について、知ったきっかけはありますか?

市からの文書で初めて知りました。研修等で教わることは無いですが、外国の方とコミュニケーションするうえで有用だと思っており、外国籍の児童を担任している先生方に共有したりしていました。

どういった活用をされましたか?

「マチコミメール」(連絡網サービス)を活用し、学校からのお知らせを保護者に周知するためにメールを送るという仕事があります。そのメールに「やさしい日本語」で書いたPDFファイルを添付するという対応をしたことがありました。

登校時間の変更などをメールで流しても外国籍のご両親にはうまく伝わらないことがあり、行事の日などの朝、学校まで電話がかかってくることが頻繁にありました。「やさしい日本語」で添付するようにしてから、明らかに電話が減ったと実感しています。原稿は私(福澤先生)が変換を行っており、ルビ等の誤りがあればチェックしています。

参考

「やさしい日本語エディタ」上で「PDFダウンロード」ボタンを押すことで、メールに添付するPDFを作成されていました

editor_pdf

用途は、保護者の方への連絡がメインなのでしょうか?

今のところはそうです。たとえば、学校を会場にして児童の健康診断を実施することがあります。このときは保護者にも学校へ来てもらい、子どもと校内を回って順番に検査を受けてもらう形になります。
来校してもらう前には、事前に学校から通知プリントを出して、それを確認してもらっています。こういった学校独自の通知は、教員が作成することになります。漢字の多いプリントですので、初めて学校に来る外国籍の保護者の方に意味が伝わらず、混乱が生じることがありました。英語が通じる方ならALT(英語指導助手)の外国人の先生にお願いすることもありますが、割合としてはそう多くありません。やはり、このようなケースは「やさしい日本語」にするとかなり効果があります。たとえば「就学時健康診断」を「学校に入る前にうける健康診断」などのようにです。

また、学校として一番やりたいのは、日本語支援員の方のPCで「やさしい日本語エディタ」を使い、児童への支援の際に役立ててもらうことです。支援員の方にはPCの支給が無いため実現には障壁がありますが、ルビ振りや分かち書きを自動化できる機能は非常に有用なので、支援員の方に「やさしい日本語エディタ」を利用してもらうことにはとても意味があると思います。便利だと思うのはルビ振りと、分かち書きが1ボタンででき、同じ画面でPDFやWordに変換する機能があるところです。また学校でしか使用しないような単語であっても、言い換えの提案がかなり的確にできるので、ありがたいです。

伝えるウェブへの要望・ご質問などはございますか?

ルビを振った後に分かち書きができるとありがたいのですが、やはり指定の順番があるでしょうか…。

また例えば「小学校区」などのルビを「しょうがくこうく」から「しょうがっこうく」などと修正したときに、誤変換部分と修正文字が一緒に表示されてしまうことがあります。

今後の展望を教えてください。

やさしい日本語エディタで読み上げ音声(MP3)を生成できる機能がありますが、これは今後使えると思います。ときどき、完全に日本語を勉強したことがない児童が入学してくることがあります。やさしい日本語の音声データを作れるのなら、日本語のリスニング(聞き取り)やシャドーイング(音声の復唱)などに用いることが有効なのではないかと考えています。

あるいは、小学校のホームページ上に定型文の音声データをセットしておいて、「困ったらそこを見てください」と言えるように整備できると、文章読解に苦労している非母語話者の方も分かるようになるので、そういった取り組みも可能かなと思っています。

富士市役所 加藤様(市民活躍・男女共同参画課)、米山様(学校教育課)への取材(Zoomインタビュー)

富士市について教えてください。

加藤様:富士市の外国人住民は全体の2.45%ほどで特別高い割合ということはなく、全国平均くらいかと思います。コロナウイルスの流行で一時的に下がりましたが、年明けあたりからはまた増え始めているという状況があります。現在の課題は「多国籍化」だと思います。1990年代から南米からの移住者が大幅に増えました。その頃はブラジルの方が飛びぬけて多かったのですが、今は留学生や技能実習生などの東南アジア系の方が増えており、一番増えているのはベトナムの方です。ブラジル国籍の方とほとんど変わらないくらいになってきました。

やさしい日本語の取り組みを始めたきっかけはどういったものでしたか?

加藤様:当初は通訳の方を市役所で雇用して母語で対応していたわけですが、多国籍化で住民の母語が幅広くなりこの方法では対応しきれなくなっています。たとえばフィリピンの方などは英語を話せる場合があるので職員が対応することもできますが、それこそベトナムの方はベトナム語のみということが多いです。ですから、母語で対応するよりも「やさしい日本語」という方向に動いていくのだろうと思います。去年からは「やさしい日本語」を広めるための取り組みも始めました。県庁も普及に力を入れているので「やさしい日本語」自体はわりと早くから知っていました。

やさしい日本語を広めるための取り組みについて、ぜひ教えてください。

加藤様:「やさしい日本語通信」という新聞のようなものを作成して、庁内に回覧することから始めました。文責は私なのですが、思いのほか広く読んでもらえて、学校の先生方にも読んでいただきました。現場の学校の先生方までそういった事務連絡が回ることはあまり無いのですが、先生方へ回覧すべき事項としてこの「やさしい日本語通信」を選んでくださった学校があったと聞いています。それがきっかけで先生方も「やさしい日本語」を理解してくださっているということがあり、それは良かったのかな、と思っています。

伝えるウェブを知ったきっかけはどういったものでしたか?

加藤様:内閣府IT総合戦略室が実施していた「自治体ピッチ」というイベントを見て、当時の担当者が問い合わせたという経緯です。

職員の間でもホームページを外国人住民の方が利用しやすいようにしていきたい、という話がありました。現在も機械翻訳で対応していますが、よくある行政文書や専門用語の長い文章であったり主語が無かったりするような文章が多く、翻訳がうまくいかない例がありました。誤った情報を発信してしまうのではないかという懸念があったことと、少数言語に対応していくことにも限界があるように感じていましたので、母語に関係なく理解してもらえる「やさしい日本語」の導入を考えました。

小中学校に伝えるウェブを使っていただく、という形で伝えるウェブを導入したのは富士市が初めてでした。

加藤様:導入に向けた検討の中で、ホームページの全ページへの言い換えボタン設置が諸々の理由で難しいということが分かりました。そのことをご相談したところ、「市内の小中学校でやさしい日本語エディタを利用してはどうか」とご提案いただいたことがきっかけです。

米山様:私は市の外国人児童生徒の支援業務を担当しています。学校に通訳の方を派遣したり、まだ日本に来たばかりの子どもを支援するスタッフを派遣したりといった役目です。伝えるウェブの導入は上記の経緯もあり突然だったために準備ができておらず、導入した学校のすべてで伝えるウェブを活用するところまでは至っていません。そんな中でも、伝法小学校の福澤教頭先生はご活用いただいたと聞いています。
学校には、月1~2回くらい訪問支援のスタッフが行っています。ブラジル・スペイン・フィリピン・中国の4か国語のスタッフが学校に赴いて、そこで学校の先生は彼らに保護者向けの文書を翻訳してもらうなどしていました。
ただ訪問回数は多くないので、本当はツールを用いて「やさしい日本語」による対応を行う方向に持っていくべきかな、と思います。実際に、学校は困っています。伝わらなくて。親にも、子にもです。 「やさしい日本語」を効果的に活用してもらうために、校長会や教頭会の場などで、伝法小学校の実践例の周知を行えたらと思います。

多国籍化というお話をいただきましたが、その状況で「やさしい日本語」が効果的だ、という手ごたえはありますか?

加藤様:そうですね。たとえば市役所の窓口で、通訳の方がいない言語の方が来られると、窓口から「外国の人が来たから対応をお願いします」と言われ、向かうことがあります。その時はタブレットで機械翻訳を使えるようにして持っていくのですが、主語の省略や専門用語などが多用されると翻訳がうまくいかないことがあります。
一方、外国人の対応に慣れている職員は「やさしい日本語」という意識も頭にあるので、なんとか努力して話してみると通じる、ということが多々あります。

「伝えるウェブ」への要望・ご質問などはございますか?

加藤様:言い換えられるようにしてほしい単語がいろいろありますが、幅広すぎて難しいという課題もあると思います。私たち行政職員であっても、担当課や個々の経験によって分かる単語・分からない単語が出てきます。

辞書登録についてなのですが、たとえば富士市には「神戸」と書いて「ごうど」と読ませる地名があります。これはそのまま「ごうど」と登録してしまうと「こうべ」と読ませたいときも「ごうど」になってしまうかと思いますが、どうしたら良いでしょうか?

お二方は文書作成時など、「やさしい日本語エディタ」を活用されることがありますか?

加藤様:私はある程度、自力でのやさしい日本語への変換に慣れているので、言葉に迷った時や、不安な言葉をチェックする時に使うくらいでしょうか。

米山様:「やさしい日本語エディタ」の文章に一括でルビが振れる機能は、先生方が知ったらみんな使いたいと思います。

今後の展望を教えてください。

加藤様:職員向けの研修と「出前講座」の活用です。富士市には市民の方へ向けた「出前講座」という制度があり、人気のある講座はたとえば町内会や老人会、施設の企画などで呼んでもらって、あちこちで講座をしています。今までは多文化共生についてのプログラムが1つあったのですが、新しく「やさしい日本語」のプログラムを加えました。「やさしい日本語講座」がいろいろなところで出来れば良いな、と思います。
また昨日ですが、たまたま市内の高校から依頼があり、多文化共生について話をしてきました。そこで「やさしい日本語って聞いたことある?」と高校生たちに聞いてみたのですが、誰も手が上がらなかった。その子たちは特に国際交流に関心のある生徒たちということだったので、彼らでも知らないということは、まだ広くは知られていないんだ…と思い、ぜひ聞いておいてほしい!と思って「やさしい日本語」の話もしてきました。今後も機会を見つけて広めたく思います。

米山様:「伝えるウェブ」を先生方に周知することですね。当初は私の方で、先生方のための説明資料をマニュアルから抜粋して用意していましたが、せっかく良い機能をご提供いただいているので、改めて先生方に伝わるように準備できたらと思っています。

富士市
  • 富士市立伝法小学校 福澤宏教頭先生
  • 市民活躍・男女共同参画課 加藤千代美様
  • 学校教育課 米山奈津子様

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